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Column ・ 2026.07.21

第8回 FLARMだけじゃない ― 空の「見える化」システム大図鑑(FANET・ADS-B・トランスポンダ・TCAS・PCAS)

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江副 浩 / ezoe.net ・ 2026年7月

空で機体どうしが「お互いを見えるようにする」仕組みは、FLARMだけではありません。ADS-B、トランスポンダ、TCAS、FANET、PCAS――アルファベットの略語がずらりと並び、しかもどれも「衝突を防ぐための装置」に見えて、正直どこがどう違うのか分かりにくいものです。

今回は、これらを横並びで比較してみます。細かい規格の暗記が目的ではありません。大事なのは、次のたった3つの問いで各システムを見分けられるようになることです。この3つさえ押さえれば、どんな新しい略語が出てきても位置づけが分かります。

この記事を貫く3つの問い
  • ① 協調型か、非協調型か ―― お互いが同じ「言葉」で位置を送り合う仕組み(協調型)か、相手が何もしなくても一方的に探知する仕組み(非協調型)か。
  • ② 送信するのか、受信だけか ―― 自分の存在を電波で「名乗る」のか、他機の電波を「聞く」だけなのか。名乗らなければ、相手には見えません。
  • ③ 誰が誰を見えるのか ―― これが最重要。あなたの装置が相手を見えても、相手があなたを見えるとは限らないのです。

FLARM ― グライダー乗りの共通言語

まずは主役の復習から。FLARMは、自機のGPS位置と高度、そしてこれから向かう飛行経路の予測を、免許不要の微弱電波にのせて周囲に放送します。受け取った他機のFLARMが「このままだと接近する」と判断したときだけ警報を鳴らす――第1回でお話しした「鳴るべき時だけ鳴る」仕組みです。

ポイントは、これが協調型だということ。FLARMを積んだ機体どうしが、同じFLARMという言葉で会話することで初めて成立します。相手もFLARMを持っていなければ、あなたの警報は鳴りません。周波数はヨーロッパで868MHz帯、北米で915MHz帯のライセンスフリー(免許不要)のISMバンドを使います。日本では920MHz帯のうち922.4MHzが使われます。

日本でも合法な機種がある「海外製のFLARMは日本では使えないのでは?」とよく聞かれますが、PowerFLARM Flex は日本の技術基準適合証明(技適)を取得済みで、国内で合法に運用できます。日本向けは前述のとおり922.4MHzで送受信します。技適マークのある機体は、電波法上の心配なく安心して使えるということです(日本の電波法まわりの詳しい事情は後述します)。
FLARMの弱点は「出力」FLARMの送信出力は、わずか0.025ワット(25ミリワット)ほど。対して、後で出てくる普通のモードSトランスポンダは250ワット――なんと1万倍もの差があります。だからこそFLARMは軽く安く電池も持ちますが、探知距離は3〜10km程度。アンテナの設置が生死を分けるのはこのためです(第2回参照)。

なおPowerFLARM Flex には ADS-B/In(ADS-B受信)機能が標準で搭載されており、FLARMの電波だけでなくADS-Bやトランスポンダの信号も受信できる“いいとこ取り”の機種です。つまりFLARM機からは、FLARMを積んだ仲間だけでなく、ADS-Bを出す旅客機や自家用機も見える。ただし――逆は成り立ちません(受信できても、こちらが送信しなければ相手には映らない)。この非対称こそ、今回いちばん覚えて帰ってほしいことです。

FANET/FANET+ ― パラ・ハングの世界の共通言語

FANET(Flying Ad-hoc NETwork)は、主にパラグライダーやハンググライダーの世界で普及している仕組みです。Skytraxx社が開発し、LoRaという省電力・長距離の無線技術を使って、位置情報や気象データ(サーマルの位置など)を小さなパケットで交換します。機体どうしがバケツリレー式に電波を中継するメッシュネットワークで、条件がよければ30km近く届くこともあります。

FANETは「衝突防止装置」ではないここは誤解されがちですが、FANET単体は衝突防止(コリジョンアラート)を目的としていません。位置の共有・仲間の把握・ライブトラッキングが主目的です。衝突予測のアルゴリズムはFLARMの特許領域であり、FANETはそこに踏み込まない設計なのです。

そこで登場するのがFANET+。これはFANETの送受信機に「FLARM送信機(FLARMビーコン)」を足したものです。FANET+を積んだパラグライダーは、FANET仲間に見えるだけでなく、FLARMを積んだグライダーや飛行機、ヘリからも見えるようになる。異なるコミュニティの機体が、初めて同じ画面上で出会えるわけです。低空を飛ぶパラと、そこへ舞い降りてくるグライダーの接近を早い段階で知らせる――安全上の意義は大きいものです。

トランスポンダ(モードA/C/S)― 管制と旅客機に見られるための装置

ここから先は、FLARMとはまったく別の世界――航空管制(ATC)の世界の道具です。トランスポンダは、地上のレーダーや他機から「そこにいるのは誰?」という質問(インタロゲーション)を1030MHzで受け取ると、1090MHzで自動的に返事をする装置です。「応答機」と訳されます。

  • モードA … 4桁の識別コード(スコーク)だけを返す。いちばん古い。
  • モードC … これに気圧高度を加えて返す。
  • モードS … 機体ごとに割り振られた24ビットICAOアドレスで個別に呼び出せる(Selective=選択式)。高度・便名なども digital で返す。今の主流。
グライダー乗りが知っておくべき現実大型機の衝突防止装置TCASは、トランスポンダを積んだ機体しか見えません。FLARMもFANETも、TCASには一切映らないのです。2006年にミンデン(米)でジェット機とグライダーが空中衝突した事故のあと、繰り返し言われてきたことがあります――「旅客機のTCASに自分を見せたいなら、方法はトランスポンダしかない」。FLARMは仲間のグライダーには有効ですが、旅客機に対してはトランスポンダの代わりにはなりません。

第7回で「ICAOアドレスを必ず設定せよ」とお話ししたのは、まさにこのモードS/ADS-Bとの連携のためでした。モードSトランスポンダは、次に出てくるADS-BTCASという2つの大きな仕組みの土台にもなっています。

ADS-B ― 「聞かれる前に名乗る」次世代の位置放送

トランスポンダが「質問されてから答える」のに対し、ADS-B(Automatic Dependent Surveillance–Broadcast)は聞かれなくても自分から、GPSで得た正確な位置・高度・便名などを一定間隔で放送し続けます。地上局も他機も、それを受信して交通状況を把握できます。

  • ADS-B Out … 自分の位置を送信する側。世界の多くの管制空域で装備が義務化されつつあります。
  • ADS-B In … 他機のADS-Bを受信して表示する側。

電波は主に、モードSトランスポンダを拡張した1090MHz(1090ES=Extended Squitter)を使います(米国では低空向けに978MHz UATという別方式もあります)。出力が大きく数十kmオーダーで届き、GPS由来なので位置精度も高い。まさに管制の未来形です。

FLARMとの関係PowerFLARMはADS-B(1090)を受信できるので、あなたのFLARM画面に旅客機や自家用機が出てきます。逆に、あなたがADS-B Outを積めば、ADS-B In装備機や地上局に見えるようになります。ただしADS-B OutはモードSトランスポンダ+認証GPSが前提で、装備・費用のハードルはFLARMより格段に高くなります。

TCAS(ACAS)― 旅客機に積まれた“最後の砦”

TCAS(Traffic Collision Avoidance System。国際的にはACASとも)は、地上の管制に頼らず機上だけで完結する衝突防止システムです。自分から周囲のトランスポンダを1030MHzで呼び出し、返ってくる1090MHzの応答から、相手の距離・高度・接近速度を計算します。

種類できること主な対象
TCAS ITA(交通情報)のみ。「近くに機体がいます」と知らせるが、回避操作の指示はしない。小型機(最大離陸重量5,700kg未満/19席未満クラス)
TCAS IITAに加えてRA(回避指示)。「上昇せよ/降下せよ」と具体的に指示する。旅客機など(義務化)
ACAS X次世代版。既存のモードS/ADS-Bの探知はそのままに、判断ロジックを最適化。今後の標準へ

すごいのは、2機のTCAS II搭載機が接近したとき、モードSを通じてお互いに連絡を取り合い、片方が上昇・片方が降下と役割分担する点です(両者が同じ指示を出した場合は、ICAOアドレスの大きい方が指示を反転します)。これが旅客機どうしの空中衝突を防ぐ“最後の砦”になっています。

くり返しになりますがTCASはトランスポンダの応答が“見える相手”のすべてです。トランスポンダを積んでいないグライダーは、どれだけ高性能なFLARMを積んでいても、旅客機のTCASには存在しないのと同じ。空域を共有する以上、これは肝に銘じておくべき事実です。

PCAS ― 「聞き耳を立てる」だけの受信専用機

PCAS(Portable Collision Avoidance System)は、TCASの“受信だけ版”ともいえる携帯型の装置です。自分からは何も送信せず、周囲のトランスポンダが管制レーダーやTCASに応答して出す1090MHzの電波を、こっそり傍受します。電波の強さから距離を、モードCの情報から相対高度を推定します。

PCASの限界PCASには2つの弱点があります。①方位が分からないことが多い(「近くにいる」ことは分かっても、どっちにいるかは不明)。②誰かがトランスポンダに質問していないと成立しない――近くに管制レーダーやTCAS機がいないと、相手のトランスポンダは黙ったままなので探知できません。そして当然、トランスポンダを積まない機体(=多くのグライダーやパラ)は一切見えません

PCASの代表格だったZaon社の製品(MRX/XRX)はすでに製造終了しており、いまやこの役割の多くは安価なADS-B受信機(ADS-B/In)に置き換わりつつあります。歴史的な位置づけとして知っておくとよい存在です。

その他 ― 周辺にある“見える化”の仲間たち

  • OGN(Open Glider Network) … 機上ではなく地上の受信局ネットワーク。FLARM/FANETの電波を地上で拾い、インターネット上で航跡を追えるようにする仕組みです。当サイトの OGN受信局セットアップFEELDSCOPE はこの世界の話。衝突防止ではなく“見える化・記録”が目的です。
  • PilotAware … 英国発。独自の P3I(869MHz)に加え、ADS-B/モードC/Sの受信も組み合わせた複合機。
  • SkyEcho / SafeSky など … 携帯型のADS-B送受信機やスマホアプリ。手軽に「電子的な存在通知(Electronic Conspicuity)」を実現する新しい潮流です。
  • ドローンのリモートID … 無人機に自分の識別・位置を放送させる仕組み。有人機との共存に向けた“見える化”という点で、思想はADS-BやFLARMと地続きです。

一枚の比較表にまとめる

ここまでの内容を一覧にします。横スクロールで全項目を見比べてみてください。

システム送信/受信主な周波数主目的主な使い手
FLARM協調型送信+受信868 / 915MHz帯(日本922.4MHz・免許不要)衝突予測・警報グライダー・小型機・ヘリ
FANET協調型送信+受信868MHz帯/LoRa位置共有・トラッキングパラ・ハング
FANET+協調型送信+受信FANET+FLARM送信位置共有+FLARMに映るパラ・ハング
ADS-B協調型Out/In1090MHz(978MHz UAT)位置放送(管制・交通)旅客機〜自家用機
トランスポンダ(モードS)協調型質問に応答1030/1090MHz管制・TCASに映るほぼ全動力機
TCAS(ACAS)協調型(能動探知)質問を送信+応答受信1030/1090MHz回避指示(RA)旅客機など大型機
PCAS非協調(傍受)受信のみ1090MHz傍受簡易な接近警報小型機(旧世代)
OGN―(地上網)地上で受信FLARM/FANETを受信航跡の可視化・記録地上局・観測者

※周波数は地域・機種により異なります。日本での扱いは後述します。

最重要 ― 「誰が誰を見えるのか」

比較表よりもっと大事なのが、この非対称性です。あなたが相手を見えても、相手があなたを見えるとは限らない。下の図で「A→B」の矢印は「AがBを探知できる」ことを表します。

グライダー PowerFLARM Flexのみ 🪂 パラグライダー FANET+(FLARM送信あり) ✈️ 旅客機 TCAS+トランスポンダ 🛩️ 自家用機 ADS-B もしくは モードS お互い見える PowerFLARM FlexならADS-BとモードSが見える (ただしモードSは存在のみ) ✕ TCASにFLARM機は映らない お互い見える 緑=相互に探知/青=一方向で探知(矢印「A→B」=AがBを探知)/赤破線=探知できない
❶ FLARMだけのグライダーの場合。仲間のパラとは見え合え、PowerFLARMなら旅客機・自家用機も見えるが、旅客機のTCASからは映らない。自家用機(ADS-B)と旅客機はお互いに見える。

では、第7回や今回のまとめでおすすめする「モードSトランスポンダ+PowerFLARM Flex」を積んだグライダーなら、この図はどう変わるでしょうか。次の図がその答えです。

グライダー PowerFLARM Flex+モードS 🪂 パラグライダー FANET+(FLARM送信あり) ✈️ 旅客機 TCAS+トランスポンダ 🛩️ 自家用機 ADS-B もしくは モードS FLARMで見え合う モードSでTCASに映る → お互い見える ADS-B/モードSは管制を通じてお互い見える (相手がADS-B送信していればグライダーからも直接見える) お互い見える すべて緑=相互に探知。グライダーが全員から見えるようになった。
モードS+PowerFLARM Flexのグライダーなら、パラグライダーにも・自家用機にも・旅客機にも見える。死角がなくなる“二刀流”の効果。
結論の要点
  • FLARM機は、FLARM仲間・FANET+・(PowerFLARMなら)ADS-B/トランスポンダ機を見える
  • しかし旅客機のTCASは、FLARMもFANETも見えない。TCASに映るのはトランスポンダを積んだ機体だけ
  • だから「FLARMがあるから安心」は、相手もFLARMを持っている世界でだけ成り立つ。動力機・旅客機の多い空域では、トランスポンダ/ADS-Bの装備を別に考える必要がある。

日本での注意点 ― 電波法と“920MHz問題”

第6回「日本でFLARMは何を選べる?」でも触れた、避けて通れない話です。ここまで挙げた免許不要系(FLARM・FANET)は、ヨーロッパでは868MHz帯を使いますが、日本ではこの帯域を勝手に使えません。日本の省電力無線(LPWA)に割り当てられているのは920MHz帯だからです。

最近の動き最新の機器は地域に応じて周波数を自動で切り替えるようになってきました。FLARM の日本向けは922.4MHz、Skytraxx 5 のような機種では FANET を 923.2MHz に自動で合わせる、といった具合で、周波数の面では日本仕様に対応が進んでいます。
技適はクリアできるただし、周波数が合っていても、日本で電波を出す無線機には原則として技術基準適合証明(技適)が必要です。ここが従来のハードルでしたが、PowerFLARM Flex はすでに技適を取得しており、日本で合法に使えます。一方で、技適が確認できていない海外製機器も依然として出回っているため、購入時は技適マークの有無を必ず確認してください。なお1090MHz帯のトランスポンダやADS-B Outは航空機用無線設備として別の枠組み(無線局免許・耐空性)で扱われ、こちらはこちらで相応の手続きが要ります。「どれを積むか」は、性能だけでなく“日本で合法に運用できるか”まで含めて判断する必要がある――これが日本のグライダー乗りの現実です。

まとめ ― 「万能な一台」は存在しない

ここまで見てきて分かるのは、どれか一つを積めば安心、という魔法の装置は存在しないということです。それぞれ守備範囲が違います。

  • 仲間のグライダー・パラと見え合いたい → FLARM(/FANET+)。滑空の世界の共通言語。
  • 管制や旅客機に自分を見せたい → トランスポンダ(モードS)/ADS-B。TCASに映るのはこれだけ。
  • 他機の位置を手軽に受信したい → PowerFLARM や ADS-B受信機、携帯型EC機器。
  • 飛行を記録・共有したい → OGN・FANET・FEELDSCOPE。
現実解 ― グライダーは「モードS+FLARM」の二刀流では、グライダーにとってオールマイティな衝突防止策は何か。現実的な答えは、モードS以上のトランスポンダと、FLARMの両方を搭載しておくことです。この二刀流なら――
  • トランスポンダ(モードS/ADS-B)で、旅客機や管制当局から見えるようになる
  • FLARMで、グライダーやパラグライダーどうしがお互いに見える

どちらか一方では守備範囲に穴が残ります。そして管制空域を飛ぶときにはトランスポンダがそもそも必要になるので、結局この二つは両方そろえることになる。「モードS+PowerFLARM Flex」を積んだグライダーが、これからのスタンダードになるはずです。

自分がどんな空域で、誰と空を共有して飛ぶのか。そこから逆算して装備を選ぶ――今回の3つの問い(協調型か/送信するか/誰が誰を見えるか)が、その判断の物差しになれば幸いです。

参考にした情報

FLARM 公式サイト
https://www.flarm.com/
FLARM/PowerFLARM の仕様・周波数・対応機種の一次情報。
How it works: Fanet+(Naviter)
https://naviter.com/2019/09/how-it-works-fanet/
FANET と FANET+ の違い、FLARM送信機を足す意味の解説。
About Transponders and TCAS(GliderPilot.org)
nadler.com/GliderPilotUSAflarmWeb/FLARM-Transponders.html
「TCASに映るにはトランスポンダが要る」という核心の解説。
Portable collision avoidance system(Wikipedia)
en.wikipedia.org/wiki/Portable_collision_avoidance_system
PCAS の動作原理(1090MHz傍受)と Zaon 製品の位置づけ。
Flarm / Fanet / Fanet+ の電波法対応状況アップデート(note)
note.com/shiko_negishi/n/n4648074310b9
日本の920MHz帯対応と技適まわりの現状についての国内レポート。

よくある質問

FLARMを積んでいれば旅客機から見えますか?
いいえ。旅客機のTCASはトランスポンダを積んだ機体しか探知できず、FLARMやFANETは映りません。旅客機に自分を見せるには、トランスポンダ(モードS)やADS-Bが必要です。
FLARMとFANETの違いは?
FLARMは衝突予測・警報を目的とする協調型です。FANETは主にパラ/ハングの位置共有・トラッキング用で、衝突防止は目的外。FANET+はFLARM送信機を足したもので、FLARMを積んだグライダーや飛行機からも見えるようになります。
グライダーにおすすめの衝突防止装備は?
モードS以上のトランスポンダとPowerFLARM Flexを両方積む“二刀流”です。トランスポンダで旅客機・管制に、FLARMで他のグライダーやパラグライダーに、それぞれ見えるようになります。