Column ・ 2026.08.06
第11回 「期限が切れると止まる」はもう昔の話 ― FLARM更新のリアルと、1年に一度の手順書
江副 浩 / ezoe.net ・ 2026年8月
以前の記事で「FLARMは、更新しないと止まってしまう」と書きましたが——そう聞いて、バージョンアップを忘れないかドキドキした方も多いと思います。でも、最新のFWからはその心配の必要がなくなったことをお知らせします。ファーム7.40から、FLARMは「有効期限」そのものを廃止しました。期限切れでデバイスが動作を止めることは、なくなったのです(最新版は7.44。第6回で触れた日本の周波数対応も、この新方式の上にあります)。
ただし、これは「もう更新しなくていい」という意味ではありません。古いままにしておくと、止まりはしないものの、周囲から“見えにくく”なり、あなたも周囲を“見えにくく”なる——という別のリスクが静かに残ります。この記事は、その理由を手短に説明したうえで、誰でも迷わず「1年に一度」を回せるようにする手順書です。自分の版数の確かめ方から、FLARM Hubでの更新のやり方、年次チェックリストまで、順番にいきましょう。
1|何が変わったのか ― 「有効期限」の撤廃
かつてのFLARMは、ソフトウェアに有効期限を持っていました。期限を過ぎると画面にエラーが出て、装置が動作を止める仕組みです。2015年ごろからは「現行版は最低15か月有効」というローリング方式になり、年1回更新していれば必ず動き続けることが保証されていました。第7回で「1年ごとの更新は宿命」と書いたのは、この時代の話です。
それが7.40で大きく変わりました。ソフトから有効期限が撤廃され、代わりにダイナミック・バージョニングという考え方が導入されました。各機体が「周りにどんなFLARMがいるか」を見て、送信するプロトコルの版を自動で選ぶ——新しい相手には新しい方式で、古い相手に出会えば古い方式に落として話す、という仕組みです。だから、全機が足並みをそろえて一斉更新しなくても、通信が成り立つようになりました。
2|でも「更新しなくていい」ではない ― 残る本当のリスク
ここが今回いちばん伝えたいところです。止まらなくなった=安心、ではありません。FLARM公式も、方針転換のアナウンスの中で「引き続き最新に保つことが重要」とはっきり述べ、そのうえで見過ごせない一文を添えています——「古い版は、時間の経過とともにネットワーク上で優先度が下げられていく」。
つまり、古いファームのまま飛ぶと、こういうことが起きます。
- 相手から見えにくくなる——あなたの機体が新しい機体のリストで後回しにされ、警告の材料として扱われにくくなる。
- あなたも相手を見えにくくなる——現行機はあなたに合わせて古いプロトコルへ落として話すため、やり取りできる情報(種別・精度・新機能)が目減りする。
- 改善が届かない——毎年の更新に含まれるアルゴリズムの改良・不具合修正・新機能を、いつまでも受け取れない。
衝突防止装置にとって「見えない・見られない」は、そのまま安全余裕の目減りです。動作停止という派手な警告が消えたぶん、劣化が静かに進むようになった、とも言えます。だからこそ——
3|まず自分のFLARMを確かめる ― 版数と状態の見方
更新の前に、いまの状態を知りましょう。PowerFLARM Flexなら、無料アプリ「FLARM Hub」(iOS/Android)で確認・更新・メンテナンスがすべて完結します。アプリが使えない環境では、ブラウザで http://10.10.10.10/ を開いても同じ画面に入れます。
つなぎ方(ペアリング)
- スマホ/タブレットにFLARM Hubアプリを入れる。
- 本体ディスプレイでメニューを開き、「ハブとWi-Fi」へ進むとQRコードが出る。
- アプリで「新規デバイスを追加」→ QRコードを読み取ると、PowerFLARM Flexにつながる。
Statusページで見るところ
つながったらStatus(ステータス)ページを開きます。ここに、デバイスの状態・フライトモード・バッテリー・Wi-Fi情報、そしてエラーメッセージがライブで表示されます。エラーは重大度で色分けされ、再起動するまで表示され続けます。
ここで、いまのソフト版数が最新かどうか、赤いエラーが出ていないかをチェック。最新でなければ、次の手順で更新します。
4|更新する ― FLARM Hub「メンテナンスページ」
更新すると言っても、中身は別々の3つです。まず全体像を押さえましょう。
アプリは新しいリリースが出ると通知してくれます。更新は、FLARM Hubの「メンテナンス(Maintenance)ページ」から行います。ここでソフトウェアと障害物データベースの更新、IGC飛行記録のダウンロードがまとめてできます。
更新の手順
- Statusページで赤いエラーがないこととバッテリー残量を確認する。
- メンテナンスページを開く。新しい版があれば案内が出る。
- ①PowerFLARM本体ソフトと②FLARM Hubソフトを最新版に更新する(2つは別ファイル)。
- 障害物警告を使う人は③障害物データベースも更新する(別売ライセンス・任意)。
- 更新中は画面がビジー表示になる。完了するまで電源を切らない。
- 終わったらStatusで版数が上がり、エラーがないことを確認する。
5|障害物データベースは、今も「期限あり」
有効期限が撤廃されたのはファーム本体の話です。障害物データベース(マストや送電線などの固定障害物を警告するオプション)は別売ライセンス制で、今も有効期限があります。使っている場合は、期限が切れる前・年次メンテのタイミングで更新してください。期限が切れると ERROR 82(障害物DB期限切れ)が出ます。障害物警告を使っていない機体は、この項目は気にしなくて構いません。
6|エラーが出たら ― 昔のコードと今
Statusページや本体に出るおもなエラーと、今の位置づけです。重大度3(赤)は飛行前に必ず解決します。
| コード | 意味 | 今どう考えるか |
|---|---|---|
11 | ソフトウェア期限切れ | 7.40以降は基本的に出ない(有効期限を撤廃したため)。出るなら相当古い版。要更新。 |
12 | ソフトウェア更新エラー | 更新に失敗。電源・ファイル・接続を確認してやり直す。 |
81 | 障害物DBが不正 | ファイル形式やインストールを確認。正しいDBを入れ直す。 |
82 | 障害物DBの期限切れ | DBは今も期限あり。最新版を購入・更新する。 |
43 | ICAOアドレス/無線IDの誤り | “幽霊機”になる原因。設定を見直す(第7回参照)。 |
B1 | ライセンス無効 | シリアル番号違いなど。ライセンスを確認する。 |
コードは16進数で表示されます(表示によっては10進数やテキストのこともあります)。判断に迷ったら公式マニュアルの付録A(エラーコード一覧)を確認してください。
7|1年に一度、これだけ ― 年次チェックリスト
公式マニュアルの「年次メンテナンス・チェックリスト」を、実際に手を動かす順に並べ直しました。耐空検査のついでに、この10項目を通せば十分です。
| # | 項目 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 取り付け | 本体・マウント・外部ディスプレイががたつき・摩耗なく固定されているか。 |
| 2 | 設置状態 | 空が遮られていないか。金属物・干渉源(他のアビオニクス・アンテナ)から離れているか。 |
| 3 | 配線 | USB/RJ45のケーブルとコネクタに摩耗・損傷・腐食・浸水がないか目視。 |
| 4 | ①ソフト更新 | PowerFLARM本体ソフトとFLARM Hubソフトを最新に(FLARM Hubアプリから)。 |
| 5 | ②ディスプレイ更新 | 外部ディスプレイをつないでいれば、そのメーカー提供の最新版に。 |
| 6 | ③障害物DB更新 | 障害物DBを使っていれば、最新版に更新(今も期限あり)。 |
| 7 | 設定の見直し | リリースノートを見て、増減した設定を確認。機体タイプ・ICAO・トランスポンダに注意。 |
| 8 | 状態確認 | 電源を入れ、エラーがないか・15分以内にGPSロックするかを確認。 |
| 9 | レンジアナライザー | 数回飛んだあと、Hubのレンジアナライザーで受信性能を確認(全方向おおむね5km超が目安)。 |
| 10 | CARPリセット | 設置・更新後は連続性能アナライザー(CARP)をリセットし、新しい監視サイクルを開始。 |
まとめ ― 「止まる」心配から、「見え続ける」ための一手間へ
7.40以降、FLARMは期限切れで止まらなくなりました。これは、整備サイクルを持たない新しい仲間たちにも門戸を開くための、前向きな方針転換です。一方で、更新を怠った機体は静かにネットワークの隅へ追いやられ、見えない・見られない状態に近づいていきます。
