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Column ・ 2026.07.14

第7回 FLARMは、付けてからが本番 ― 購入後にやる設定とメンテナンス

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江副 浩 / ezoe.net ・ 2026年7月

前回「日本でFLARMは何を選べる?」で、ようやく「どれを買うか」という話にたどり着きました。晴れてPowerFLARM Flexが手元に届いた――おめでとうございます。ですが、ここで手を止めないでください。FLARMは、スイッチを入れれば勝手に守ってくれる魔法の箱ではありません。正しく設定して、正しく維持して、はじめて衝突防止装置として本来の力を発揮します。

今回は、購入後にやるべき初期設定と、この装置とずっと付き合っていくうえで避けて通れないたった一つのメンテナンスについて、公式マニュアル(FTD-114 PowerFLARM Flex マニュアル)に沿って、順を追ってご説明します。

この記事の位置づけ本記事は、操作画面つきの手順書「PowerFLARM Flex が届いたら最初にやること」(ezoe.net/glider/PowerFLARM-Setup.html)の補足説明版です。手順書が「どこを・どう操作するか」を示すのに対し、こちらは「何を・なぜやるのか」という背景を読み物としてお伝えします。実際に設定する際は、必ず手順書とあわせてお読みください。

まず結論 ― FLARMには「1年ごとの更新」という宿命がある

初期設定の前に、いちばん大事なことをお伝えします。FLARMは、少なくとも1年に1回(12暦月ごと)、ソフトウェアを最新版に更新しなければなりません。これは「できればやったほうがいい」ではなく、公式マニュアルに明記された必須の作業です。

なぜでしょうか。FLARMは、世界中の機体が同じ無線プロトコルで会話することで成り立っています。プロトコルやアルゴリズムは改良され続けており、その変更をエコシステム全体で足並みをそろえて適用するために、全機一斉の年次更新が求められるのです。あなた一機が古いままだと、会話がかみ合わなくなっていきます。

重要更新を怠るとどうなるか。マニュアル(EULA 2.7)はこう述べています。「ファームウェアを更新しない場合、警告や通知の有無にかかわらず、本装置が動作不能になるか、他の装置との互換性が失われる可能性があります」。つまり、最悪の場合、あなたの機体が他機のFLARMに見えなくなるのです。衝突防止装置として、これ以上に危険な状態はありません。期限が切れると、画面には ERROR 11 Firmware expired(ソフトウェア期限切れ)が表示されます。
2026年の追記この「動作不能になる」という記述はファーム7.40より前の仕様にもとづくものです。7.40(最新は7.44)で有効期限は撤廃され、現行機は期限切れでも動作を止めなくなりました。ただし古いままだと「見えない・見られない」リスクは残るため、年1回以上の更新はやはり必要です。詳しくは第11回「『期限が切れると止まる』はもう昔の話」を参照してください。

更新するのは「2つのソフト」

PowerFLARM Flexには、別々にインストールされる2つのソフトウェアがあります。どちらも最新に保ちます。

  • PowerFLARMソフトウェア … FLARM本体の中身。プロトコルやアルゴリズムはここ。年次更新の主役です。
  • FLARM Hub … スマホ/タブレットの設定・メンテ用アプリ側のソフト。

更新は難しくありません。スマホにFLARM Hub アプリを入れ、機体側のメニューに表示されるQRコードでWi-Fi接続(手動なら http://10.10.10.10/)、あとはアプリのメンテナンスページから更新するだけです。新しいバージョンが出ると、アプリが通知してくれます。

忘れない工夫年1回の更新は、うっかり忘れてしまいがち。おすすめは、耐空検査(年次点検)を行うタイミングに合わせて更新することです。「検査のときにFLARMも一緒に更新する」と決めておけば、毎年ほぼ同じ時期に確実に巡ってきます。カレンダーや整備チェックリストにあらかじめ計画として組み込んでおく――これが期限切れを防ぐいちばん確実な方法です。
障害物警報を使うなら送電線やタワーなどの障害物警報を使う場合は、その障害物データベース(ライセンス制/別売)も年次で更新が必要です。期限切れは ERROR 82 Obstacle DB expiry として表示されます。使っていなければ気にしなくて構いません。なお、日本版の障害物データベースも、近いうちにFLARM社からリリースされる予定です。日本国内の送電線やタワーなどに対応したデータベースが使えるようになりますので、続報を待ちましょう。

ちなみに、FLARM社は年次にやるべきことを「年間メンテナンスチェックリスト」として公開しています(マニュアル付録B)。要点だけ抜き出すと、次のとおりです。

毎年やること(付録B 抜粋)ひとこと
ソフトウェア更新PowerFLARMソフト+FLARM Hub を最新へ。これが本丸。
設定の見直しリリースノートを見て、新設定や変更点があれば反映。機体タイプ・ICAOアドレス・トランスポンダ設定に特に注意。
取り付け・配線の点検マウントの緩み、ケーブルの摩耗・腐食・水分侵入を目視。
レンジ(受信範囲)の確認数フライト後にレンジアナライザーで確認。全方向でおおむね5km超が目安。確認後はリセット。
障害物DB更新使っている場合のみ。
ステータス/エラー確認電源を入れてエラーが出ていないか、GPSロックが取れるかを確認。

初期設定① ― 正しく「名乗る」ための必須設定

ここからが、届いたときに一度きちんとやっておく初期設定です。FLARMは、自分の情報を電波にのせて周囲に送り、同時に周囲の情報を受け取っています。だから「自分が何者か」を正しく設定することが、システム全体の精度に直結します。

機体タイプ 必須

グライダーなのか、飛行機なのか、ヘリなのか。FLARMは機体タイプごとに専用の衝突予測アルゴリズムを使います。ここを間違えると――マニュアルは明確に警告しています。「自機システムだけでなく、他機のFLARMシステムにも悪影響を及ぼします」。自分だけの問題では済みません。必ず正しく設定してください。

トランスポンダータイプ 必須

機体に積んでいるトランスポンダの種類を設定します。これにより、FLARMが自機トランスポンダからのデータをどう解釈すべきかを理解します。トランスポンダを積んでいない機体は「なし」でOKです。

初期設定② ― トランスポンダ搭載機は「ICAOアドレス」を必ず設定

これは、モードSトランスポンダ、または独立したADS-B Out(1090ES)機器を積んでいる機体に関わる、とても大切な設定です。該当する方は必ず読んでください。

なぜ設定が必要なのか ― 自分が“幽霊機”になるのを防ぐ

PowerFLARM Flexは、FLARMの電波だけでなく、ADS-BやモードC/Sの信号も受信しています。ここで問題が起きます。あなた自身のトランスポンダも、当然ADS-B/モードSの電波を出しています。FLARMが「これは自分の電波だ」と気づけないと、自機のトランスポンダ信号を「すぐ隣にいる別の機体」として拾ってしまうのです。いわゆるゴースト(幽霊機)表示――そして、ありもしない自分自身に対して誤警報が鳴りかねません。

これを防ぐのがICAO 24ビットアドレスの設定です。自機のアドレスを教えておけば、FLARMは受信した信号を見て「あ、これは自分だ」と正しく名寄せし、二重表示や自分への誤警報を防ぎます。おまけに、内蔵気圧センサーの代わりに自機トランスポンダの気圧高度を使えるようになり、高度の精度も上がります。

ICAOアドレス 未設定 🛩️ 自機 ✈️ ゴースト機 (じつは自分) ⚠ 二重表示・誤警報のもと ICAOアドレス 設定済み 🛩️ 自機(1機だけ) ✓ 自分と認識して統合
ICAOアドレスを設定しないと、自機のトランスポンダ信号を別の機体として拾ってしまう。設定すれば「自分」と正しく認識され、二重表示や誤警報を防げる。

日本の落とし穴 ― アドレスは「8進数」で通知される

ここで、日本のパイロットならではのワナがあります。日本で機体に割り当てられるICAO 24ビットアドレスは、多くの場合8進数(オクタル)の形で通知されます。ところが、FLARMに入力するのは16進数(ヘックス)です。この変換を忘れると、まったく別のアドレスを設定してしまい、かえって混乱のもとになります。

手計算は間違えやすいので、当サイトに専用の変換ツールを用意しています。8進数を貼り付ければ、そのまま16進数が出ます(入力値は一切記録しません)。

▶ ICAOアドレスの 8進 → 16進 変換
OctaHex ― ICAO 24bit アドレス コンバーター
通知された8進数のICAOアドレスを、FLARMに入力する16進数へワンタッチで変換。入力した数値は記録されないよう配慮しています。設定前にここで一度変換しておきましょう。
変換ツールを開く → ezoe.net/glider/OctaHex.html
要注意ICAOアドレスはSquawkコード(4桁のトランスポンダ・コード)とは別物です。Squawkは管制から都度指示される可変の番号ですが、ICAOアドレスは機体固有の変わらない識別コード。混同しないようにしてください。

初期設定③ ― 登録記号・パイロット名などの「見える情報」

FLARMは、次の情報を定期的に電波で送り出し、他機のディスプレイにあなたの機体として表示させることができます(マニュアル 5.1.5「航空機情報ブロードキャスト」)。

  • パイロット名
  • 航空機登録番号(例:JA2345HB-FLA など)
  • 航空機モデル(例:SZD-56 Diana 2
  • コールサイン(コンテストナンバーなど)

これらを設定しておくと、周囲の機体から「あの番号は誰々さんだ」と分かるようになり、お互いの状況把握がぐっと楽になります。設定はFLARM Hub アプリから行います。ブロードキャストは初期状態でオンですが、望まなければ完全にオフにもできます。

複数機で使うならPowerFLARM Flexはポータブル設計で、機体をまたいで載せ替えられます。そのときに役立つのがプロファイル機能。機体ごとにICAOアドレスや登録記号などの設定一式を保存しておけば、飛ぶ前にプロファイルを読み込むだけで正しい設定に切り替わります。載せ替えるたびに手入力し直す必要はありません。※機体を移したら、ICAOアドレスの切り替えだけは絶対に忘れずに。

初期設定④ ― じつはIGCロガーとしても使える

意外と知られていませんが、PowerFLARM FlexはIGCフライトレコーダーを内蔵しています(GFAC認証は申請中)。エンジン騒音レベル(ENL)の記録にも対応。特別な設定は要らず、飛び始めれば自動で記録が始まり、1秒間隔で約100時間ぶんを内蔵メモリに保存します(いっぱいになると古いものから上書き)。

記録した飛行ログ(IGCファイル)は、FLARM Hub アプリから読み出せます。バッジ申請やフライト解析に使えますので、「別途ロガーを積んでいたけれど、これ一台で足りるかも」という方は、一度中身を確認してみてください。

豆知識気圧センサーは出荷時に校正済みですが、校正証明書は付属しません。FAI/IGC公式用途で証明が必要な場合は、別途しかるべき機関での校正が必要になります。

設定したら、飛ぶ前に「動作確認」まで

設定が終わったら、いきなり頼りにするのではなく、ちゃんと動いているかを確かめます。マニュアル3.10「インストール確認」に沿って、最低限これだけは。

  1. エラーが出ていないか電源を入れ、本体画面とFLARM Hubに赤・オレンジのエラーがないか確認。あれば飛行前に解決を。
  2. GPSロックの確認空の見える屋外で、電源投入から15分以内にGPSを掴むはず。掴まなければ設置位置を見直します。
  3. ID設定の確認メニューの「Info」で、トランスポンダ設定とICAOアドレスが意図どおりか再チェック。
  4. アラームシミュレーターで“予行演習”警報の見え方・鳴り方に事前に慣れておく。本番でとっさに反応できるかは、ここで決まります。
  5. 数フライト後にレンジ確認何度か飛んだらレンジアナライザーで全方向の受信状況を確認。死角が大きければ設置位置の再検討を。
位置がすべてPowerFLARM Flexはアンテナ内蔵型。だからこそ、本体をどこに・どの向きで置くかが受信性能を決めます。水平に、空が見え、金属やカーボン・フロントガラスの陰にならない開けた場所へ。詳しくは第2回「PowerFLARMをどこに付ける?」もあわせてどうぞ。

仕上げ ― OGNに“自分の機体”を登録する

ここは、安全とは別の「あると楽しい」設定です。第5回「Open Glider Network(OGN)について」でお話ししたとおり、FLARMの電波にのっているのは名前のないID(番号)だけ。そのままだとトラッキングサイトには味気ない番号で表示されます。

「自分の機体を登録記号やコンテストナンバーで表示したい」なら、そのIDが自分のものだと事前に登録しておきます。登録先は主に次の2か所です。

OGN Devices Database(DDB)
https://ddb.glidernet.org
OGNの機体データベース。IDと機体情報の紐づけに加え、トラッキングの可否(表示させるか/させないか)もここで管理する。
FlarmNet
https://www.flarmnet.org
FLARM IDと機体・パイロット情報を結びつける登録データベース。多くの表示サイトやナビ機器が参照する。

登録すれば、各サイトで番号のかわりに「JA○○○○」や機体名で表示されるようになります。仕組みの詳しい話は第5回にゆずります。

プライバシー設定は、あわてず「慣れてから」でいい

最後に、プライバシーの話を。「自分の位置を人に見られたくない」という気持ちはよく分かります。でも――導入直後から表示を止めてしまうのは、あまりおすすめしません。

理由は二つ。ひとつは、まず普通に表示させてみたほうが、装置の動きに早く慣れるから。トラッキングサイトで自分の航跡が見えると、「ちゃんと動いているんだ」という実感がわきます。もうひとつは――止め方によっては大切な安全機能まで一緒に失うおそれがあるからです。

第5回の要点FLARM側のNOTRACKを使うと、公開地図に映らないだけでなく、OGNサーバ内にも記録が一切残りません。すると、万一遭難したとき「最後にどこを飛んでいたか」を捜索に使えなくなります。安全のための装備としては本末転倒になりかねません。
おすすめの順序① まずは表示させたまま、しばらく飛んで慣れる。 → ② どうしても表示を絞りたくなったら、NOTRACKではなくDDB側の「オプトアウト」設定にする。これなら公開地図には映らず、サーバ内には記録が残るので、いざというときの捜索に使えます。「見られたくない」と「いざの備え」を両立できます。詳しくは第5回をご覧ください。
――そして大前提として、どの設定を選んでも、FLARM本来の衝突防止機能はいつも通り働きます。安全を犠牲にしてプライバシーを守るわけではありません。

まとめ ― 「載せて終わり」にしないために

あらためて、購入後にやることを一枚にまとめます。

やることいつ要否
機体タイプの設定導入時必須
トランスポンダタイプの設定導入時必須
ICAOアドレスの設定(8進→16進変換)導入時トランスポンダ/ADS-B Out 搭載機は必須
登録記号・パイロット名などの入力導入時推奨
動作確認(GPS・シミュレーター・レンジ)導入時必須
OGN登録(DDB/FlarmNet)導入時任意
プライバシー設定慣れてから任意
ソフトウェア更新毎年(12暦月ごと)必須・継続

初期設定は一度きり。でも年次更新だけは、これから毎年ずっと続きます。FLARMは「載せて終わり」の装置ではなく、手をかけ続けることで守ってくれる装置です。せっかく手に入れた電子の目を、いつでも万全の状態に保ってあげてください。次に空へ上がるときも、その先も、安全な一日でありますように。

▶ 画面つきの手順書はこちら
PowerFLARM Flex が届いたら最初にやること
この記事で触れた初期設定・ICAOアドレス設定・FLARM Hub の使い方・レンジ確認までを、実際の操作画面に沿ってステップごとに解説しています。手を動かすときの相棒にどうぞ。
セットアップガイドを見る → ezoe.net/glider/PowerFLARM-Setup.html

よくある質問

FLARMを買ったら最初にやる設定は?
機体タイプ、登録記号・パイロット名の設定です。トランスポンダ搭載機はICAOアドレスも必須。設定後は飛行前に動作確認を行い、OGNに自分の機体を登録しておきます。
FLARMは一度設定すればずっと使えますか?
いいえ。FLARMは1年ごとのファームウェア更新が必要で、期限が切れると機能が停止します。障害物データベースも定期的な更新が前提です。
ICAOアドレスはなぜ設定が必要ですか?
モードS/ADS-Bと正しく連携し、旅客機のTCASなどに自機を正しく見せるためです。トランスポンダ搭載機では設定が必須になります。